2019/01/14 15:04

放送禁止歌というものがあります。実際には「要注意歌謡曲」と呼称し、民放連のガイドラインとなるシステムが、1983年まであったそうである。だがそのシステムには何の強制力もなく、放送局の自主規制が実態であり、曲の内容云々が疑問視されることもなく暗黙の内に消されていったレコード達が、たくさんあったのです。
その中には、過激な描写やエロ、蔑視や差別、そういった類のものも含まれますが、問題提議を目的とした歌もありました。特に70年代前後の、アングラ・フォーク勢の、プロテスト(政治的抗議)、トピカル・ソング(時事的風刺歌)所謂、反戦平和、差別撤廃、政治批判など社会的テーマを扱ったものなどが、発売中止や回収などの憂き目に遭うわけです。

昔からそういった禁忌なレコードを集めたりしていましたが、いまやいい時代になりました。youtube でほとんどが聴けてしまうわけです。まぁそれでも、清志郎のタイマーズや、頭脳警察、村八分など、あまりにも過激なものは削除されていっているようです。
例えば、北島三郎のデビュー曲に「ブンガチャ節(62年)」というのがあります。歌の合間にある"キュキュキュー"が、ワイセツでイヤラシイ考えを起こすという事で、発売後一週間で放送倫理規定に引っかかり放送禁止。こういった事例が、その当時は多かったようですが、こういったのは逆に禁止にした側の卑猥さが目立ってしまいますね。ベットの軋む音を連想させるだって、バカ言ってんじゃねーよ、て思っちゃう。それでも、そのアクシデントが話題となり、次作「なみだ船」のヒットに繋がるという、これもスキャンダルがプラスとなる好例である。もしかしたら、"キュキュキュー"が無ければ、今のさぶちゃん歌謡界に存在していなかったかも知れないと考えると、可笑しい話です。
【禁忌歌】youtube チャンネル
https://www.youtube.com/playlist?list=PL6oB74ZJTV7srjK-EQkgfz5nrwmC39P2i

【EP】岡林信康 / くそくらえ節・がいこつの唄


【EP】岡林信康・はっぴいえんど/手紙

【EP】岡林信康 / チューリップのアップリケ

アングラフォークの教祖、岡林信康は特に放送禁止歌が多い。上の他にも、「三谷ブルース」「ヘライデ」などがそうだ。高田渡「三億円強奪事件の歌」「自衛隊に入ろう」、三上寛「夢は夜ひらく」「小便だらけの湖」、泉谷しげる「戦争小唄」「おー脳」「黒いカバン」、山平和彦「放送禁止歌」「大島節」「月経」、フォーク・クルセイダーズ「イムジン河」プロテスト・ソングはフォークの持つ醍醐味だ。特に60年代後期、高度経済成長、ベトナム戦争、安保闘争、全共闘運動・大学闘争などの学生運動の気運の中、フォークが担った役割は大きい。社会への不満、国家への不信、世代感の隔絶、問題が噴出した時代、差別、権力、体制、戦争、金、エロ、そういったものが渦巻く時代の伴奏であった。それはあの激動の明治~大正の演歌師* にも通じるものだ。(*ここでいう演歌とは明治時代の自由民権運動において政府批判を歌に託した演説歌のこと)



なぎらさんのこの歌は、もちろん相撲協会に配慮しての自主規制であろう。とにかく放送局としては、余計なリスクを避けるべく体制側に汲みするところで規制が行われる。放送禁止にするという理由は、それだけだ。部落解放同盟、右翼団体、国家権力、政治、警察、スポンサー、それらに反する音楽を濾過し、お茶の間に届ける事だけに主眼が置かれているのである。臭いものには蓋、見て見ぬふり、事なかれ主義の成れの果ての言葉狩りであった。
高倉健「網走番外地(65年発売盤)」では、酒を"キス"、女を"スケ"というヤクザ言葉(隠語)が問題となり、後に発売のレコードは歌詞が変更される。ヤクザ絡みでは「ネリカン・ブルース」「関東流れ者」などがある。
エロものだと、つぼいノリオの歌や、畑中葉子「後ろから前からどうぞ」「丸の内ストーリー」、意外なものだとピンク・レディ「S.O.S.」や、おニャン子クラブ「セーラー服を脱がさないで」、黒沢年男「時には娼婦のように」などがある。さらに言葉狩りといえば、"びっこ"とつく曲目や、"おし" "めくら" "きちがい" などがそれに当たる。

というわけで今は昔、最近では美輪明宏「ヨイトマケの唄」などNHK紅白で普通に流される。「要注意歌謡曲」が消えたということではないようだ。何故なんでしょう?もしかしたら、もう歌なんかに力などないと体制側が思っているのかも知れませんね。それとも、視聴者側が歌詞などに耳を傾けないという時代なのかも。「竹田の子守唄」の背景を知ろうともしないし、考えようともしない、そんな思考停止な時代、なのだろうか?歌よりも辛辣な現実、てことでもないだろうが、消された歌を追ってその時代のことを考えるのに、レコードは面白いのである。

参考文献:解放出版「放送禁止歌/森達也・著」